現在、栽培2年目になるアインコーン小麦。
存在を知ったのは、パン屋を始める前だった。
調べると、西洋では流通していて、小麦だけでなくお菓子やパスタなども販売されていた。
スペルト小麦よりももっと古い原種で、元祖・古代小麦ともいえるアインコーン小麦。
よりゲノム構造がシンプルで、グルテンが非常に少ないので、
アレルギー反応が出にくく、栄養価が高いのが特徴だ。
日本では、ようやくスペルト小麦が浸透し始めたくらいで、
アインコーン小麦は、ほぼ流通していなかった。
今でも、輸入された小麦粉は販売されているようだが、知る限り、原麦は手に入らない。
僕は、自分で育てた小麦でパンを焼きたいという思いがあるので、輸入するしか方法はない。
小麦栽培は、一年に一度しか試すチャンスはない。
2年前の夏、パン屋を開店する前から、
秋の種まきに向けて、原麦を個人輸入する手続きを始めた。
農林水産省などに問い合わせて、穀物を輸入するための手続きを調べ、
種として使う、貴重な30kgを輸入した。
自宅に到着するまで、ずっとどきどきし通しで、初めて見るアインコーン小麦は、
スペルト小麦とはまったく違う形で、繊細な細長い形をしていた。
小麦の種まきの季節、秋。
初めて、自分で輸入したアインコーン小麦を、畑に撒いた。
この年は、長雨や台風で、種まきがだいぶ遅れてしまい、寒い時期になってしまった。
かなり心配したが、半分くらいは芽を出してくれ、ほっとした。
もう11月の寒さが来ていて、成長は遅かったが、
なんとか、可愛らしい鮮やかな緑の葉が、長野の冷たい冬を越してくれた。
春になると、アインコーン小麦は、ぐんぐんと成長し、しっかりと穂をつけてくれた。
初めてみる穂は、スペルト小麦とは違い、ひげがたくさん生えていた。
緊張しながら迎えた、夏の収穫期は、またもや長雨にみまわれた。
現代の品種よりも背が高いアインコーン小麦は、
長雨で倒れてしまい、モノにならない畑が多くあった。
つかの間の晴れ間を見て、状態のよい小麦をなんとか収穫することができた。
パンとして販売できる量は収穫できなかったが、
次の種まき分ほどの量を確保できたので、少しほっとした。
大切な種となる小麦。
秋には、収穫した種を、祈るように、畑に播いた。
この種は、自分で育てたもの。
日本の、この土地の気候や土壌で力強く成長し、実った種だ。
この環境に順応したのか、2年目はよい発芽率で、その後もよい成長を見せてくれた。
アインコーンは、その土地その土地で順応していく、
と聞いたことがあったので、嬉しくなった。
春には穂ができて、小麦らしい形になった。
明らかに、最初の年よりも勢いがよく、大きく、元気だ。
そして今、畑ではアインコーン小麦が、さやさやとなびいて、
だんだんと黄金色になってきた。
五穀豊穣の祈りをこめて、もうすぐ、収穫期がやってくる。
(2023年6月 追記)
アインコーン小麦のパンに関しましては、まだ商品化する収量に達しておらず、販売しておりません。
また、種子の譲渡・販売はしておりません。どうぞご了承ください。